doves

声だけ。

昨年末はいくつかのプロジェクトを並行して走らせていた。
その一つが、わたしも末席に置いていただいている Pop Company とのプロジェクト。
いろんなシーンで活躍なさっている方々の「声」を録音していただいて、わたしがそれを素材に音を制作するというもの。
8 人もの方々(ご紹介は後述)から素敵な「声」を頂戴し、ほんとうはもっと早く形にしないといけなかったんだけれども、どうしても釜があふれてくれなくて、このタイミングになってしまった。

せっかく声を素材として預かったのだから、「声とエフェクトだけ」使って制作することにした。
実際には、近所で最近見つけた、いつもやたらとスズメが集まってる樹の前で彼らの歌声を録らせてもらった音もうっすらと使っているけど、追加したのはそれだけ。
本当は提供していただいたすべての素材を使いたかったのだけれど、それは別の機会に存分にやらせていただくこととして、今回の制作においては、「それぞれの人の素材を一つ以上必ず使う」ことをルールとした。
どれが誰の声だか分かるのはほんの一部だと思うけど、ちゃんとみなさんの声を使わせていただいてる。

まずは Ableton Live に全部の素材を放り込んで、サンプルをチョップしたり、Warp のパラメータをいじり倒してみたり、チューナーを挿してサンプルをチューニングしてみたり、レイヤーを作ってみたり、MIDI トラックと Simpler を多用してみたり、エンヴェロープを細かく調節してみたり、いろいろなエフェクトを試してパラメータをグリグリ動かしながら最適解を探したりと、ふだんはほとんどやらないこともあえて取り入れながらトラックを作って。
作ったトラックはいつも通りに Studio One に並べて、マスタートラックに EQ だけ挿して、あとはトラックの位置を変えたり、ゲインを調節したり、オートメーションで抜き差ししたり。

前にもどこかに書いた気がするけど、「できた」という感じの音と、「作った」という感じの音があって。
今回は後者。「作りました!」っていう感じがすごくする。ものすごく、学びも多く、深かった。
どちらがいいとか悪いとかじゃないし、好きとか嫌いとかでもないんだけど。
みなさんに納得していただける出来になっているかどうか、それだけが不安。

「声」をご提供いただいた方々のお名前はこちら(五十音順・リンクは X のアカウント)。
スズメたち以外の全員から “love” “a” “ah” という 3 種類の録音をお預かりした。
すごい活躍をなさっている人たちばかりで、恐縮してしまう。ありがとうございました!

エルコ将軍さん
黒木ちひろさん
すずきゆいさん
前西原夕子さん
丸橋ミケさん
MIKIKO (AKARA) さん
横尾俊昭さん
LISA13 さん
近所のスズメたち

人の声、あるいは言葉を音に取り込みたいという思いはずっとあるので、機械に朗読してもらった音声を使うことは多いのだけれど、「肉声」については忌避してきた、と言うとちょっと大げさかもだけど、できるだけ身をよじってかわして、向き合うのを避けながら制作を続けてきた自覚がある。
今回、ようやく真正面から向き合った(といっても、自分の声ではないけれど)。そして、やっぱり思うのは、声って強い。強くて手強い。
今回、録音をご提供くださった方々のほとんどは、自らの肉声を表現手段のメインに据えているわけで、それってすごいことだなと、改めて尊敬の念を抱いたりしている。

浅田彰じゃないけれど、自分は(肉体も精神も)オンボロ複葉機みたいなものだと思っていて。
しょっちゅうあちこち手入れして、ようやく低空飛行ならなんとかできるぐらいボロボロ、みたいな感覚なので、声や肉体(もちろん楽器の演奏も含む)でエモーションをエモーショナルに表現することを選ぶ人たちを、ほんとうに無条件で尊敬してしまう。
その一方で、肉体や感情を想起させるものを拒否したがる自分もいて、それはきっとわたしがオンボロ複葉機だからだと思うんだけど、こんなわたしがまがりなりにも高く飛ぼうと思ったら、機械とか文学とか数学とか哲学とかの力を借りるしかないというか、自分の肉体や感情を置いてけぼりにしないと高く飛ぶなんて無理というか、そんな感じがする。
きっと、自分の肉体や感情が嫌いだからなんだろうな。
パラメータを打ち込んだりオートメーションを描いたりプログラミングをしたり、モジュラーシンセサイザーでパッチングしたりノブをひねったりしてるときって、自分の内側にあるものを身体の外に引っ張り出して、目の前に置いて眺めているような感覚だし。
それでやっと安心できるというか、気持ちよくなれるというか。

やっぱりちょっと、何かがおかしいんだろうな、わたし。
そんなやつがこの世に一人くらいいてもいいだろうと居直ってるから、修正する気もないんだけど。

というわけで、新作 “doves” です。
「声」をご提供くださったみなさまにもう一度心からの感謝を。ほんとうにありがとうございました。

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