あの感覚は、たぶん、ずっと、言葉にできない。
前の記事にも書きましたけど、2023 年 7 月 15 日(土)に、ライブに出演させていただきました。人生初。
出演するに至った経緯についてはこちらにも多少書いたし、ライブ告知についてはトップページとかに載っけたりしてるけど(もう終わったけど記念に載せてます。たぶんずっと載せ続けます。うれしかったから)、再掲。
今回のライブ “Pulstrophe Chapter One” を主催なさったばねとりこさんから Twitter DM でお声がけいただいたのが始まり。
後から聞いたら、誰か新しい人いないかしら……と探していて、わたしたちのことを見つけてくださったそうで。
「ライブに出たことはないですが、出てみたいです!」という、考えようによってはとんでもない返事を広い心で受け止めてくださり、右も左も分からない質問だらけのわたしたちに温かく接していただき、アドバイスもたくさん与えていただいて。
初めてのライブが彼女の主催するものでほんとうによかった、ありがたかったと思っています。
主催者や他の出演者にご迷惑になることがあってはいけないので、即興演奏の音が出なかったとしてもかろうじて成立するくらいには事前の仕込みをしておこうと、Ableton Live に向き合って。
わたしにしては珍しいというか久しぶりというか、わりと時間をかけて音作りをした。
30 分の持ち時間と聞いていたので、25分くらいの音源を作り上げて。
そうそう、その前後で、Ableton Live をライブで使うのはいいけど、どうしたらいいのか分からないことがあって、いろいろ調べていたら、Osamu Sugiyama a.k.a Staris さんの YouTube にたどりついた。
この人の YouTube は面白いし、言ってることは真っ当だし、作る音はかっこいいし、内容もめっちゃ参考になる。
疑問にドンピシャだったのがこの動画で、あまりにドンピシャだったのがうれしくてコメントしちゃいました。
音源がとりあえずできたので、即興の部分を考えるのと現場でのセッティングの練習をするのに、そんなに遠くない場所にある音楽スタジオに一人で行って。
使えそうに思えた機材は全部キャリーバッグに放り込んでズルズル引きずって行ったんだけど、どれ一つ使えない。しっくりこない。しかもひどい夏風邪のひき始めに強行したので、途中から自分でも分かるくらいガンガン熱が上がってくるし。
とりあえず、前述の Osamu Sugiyama a.k.a Staris さんが紹介していた touchAble Pro という iPad アプリケーションはうまく使えそうだったので、「もうこれでいい、むり、帰る」と思ったそのとき。
使えないと思っていた機材の一つ M.A.S.F. Pedals SCM が、スタジオのスピーカーの大音量をマイクで拾って素敵な低周波数のノイズを出していることに気づいて。
繋いでいたエフェクター M.A.S.F. Pedals Kidnapper のノブをいじってみたら、熱があることも一瞬忘れるくらい夢中になれて。
これも当日使うぞー♪と、さっきまでの不機嫌はどこへやらで、セッティングの写真を撮って Elly に送ったりして。
ちなみに、帰り道はひどかったです……。重い荷物と発熱。近いとはいえ電車は乗り継ぎだし、最後は炎天下を自宅まで徒歩。死ぬかと思いました。
この時点でライブまであと 2 週間というあたりだったと思う。
スタジオで大音量で聴いてみて、音源の手直しが必要だと感じたので、夏風邪が治りかけたあたりから作業を再開して。
そのつど、Elly にも聴いてもらいながら、準備を進めていって。
その間ずうっと思っていたことは、わたしは当日、Ableton Live の再生ボタンを押してから、いったい何をするんだろう、ということ。
他人様に目の前で音を聴かせる経験はもちろんないし、即興演奏の経験もない。
自分が MacBook の画面を眺めながら 30 分、椅子に座ってボケーッとしている絵しか思い浮かばない。
砂原良徳さんが何かのインタビューで、ライブ前日までドミノを並べていって本番はそっとその一枚目を倒す、ほとんど仕込みなんだ、みたいなことを言っていた記憶があるんだけど、それは彼のようなクオリティだからそれでいいのであって、わたしみたいなのがそれじゃダメだろうとか、なんかもう、どうしたらいいのかしらってわけがわからなくなったり、できないんだからしかたないじゃないかと開き直って(というより居直って)みたり。
わたしの逡巡のたびにそれを聞かされる Elly も気が気じゃなかったんじゃないかなあ。
そんなこんなしているうちに、来てしまった当日。
前日から大阪に来てくれていた Elly と会場近くで落ち合って、予約してくれていた素敵なカフェで軽くお昼ご飯。
緊張で胃が痛くなったり頭が痛くなったりしてワタワタしているポンコツを看護?介護?修理?してくれる Elly。
そういえば、Elly との集合場所に行くときも、電車乗り間違えたりしてたんだった。大丈夫なのか、わたし。
そして、サウンドチェックのために会場入り。もうドキドキ。取って食われるんじゃないか、くらいの気分。
もちろんそんなことは起こらず、ばねとりこさんと、会場である environment 0g の平野さんが笑顔で迎えてくださった。
三々五々集まってくる出演者やスタッフのみなさんに挨拶したり、トイレの位置などを教えてもらったりしてから、いよいよサウンドチェック。
サウンドチェックと言われても、正直、何したらいいのか皆目わからない。練習を思い出しながら機材を机の上にセッティングして。MacBook からも音は出る。iPad 触っても音は出る。持ち込んだ機材から低周波数ノイズも出る。
「OK ですー!」「え!?もういいんですか?ローを出せとかハイが足りないとか、そういうのないんですか?」
「え……えっと、な、ないです……っていうか、何したらいいのかわかんないです……」「了解です!(笑)」
あとでハッとしたんだけど、この「了解です!(笑)」は、あとはこっちでなんとかするよ!っていうプロフェッショナルならではの、とてもかっこいい返事だった。かっこいいなぁ。
他の人たちがサウンドチェックでの出音にもすごくこだわって、平野さんとああしてこうしてってお話ししているのを見て、床に穴を掘って生き埋めにされたいくらい恥ずかしかったけど、でも、とても勉強にもなって。
他の出演者さんに質問したり雑談したり、着替えたり、Elly とビデオ撮影の準備をしたり喫煙所で談笑したりしているうちに、開場時刻に。
本番については、それぞれの出演者さんたちについてわたしが書いていたらいつまでたっても書き終わらないし、environment 0g(平野さん)の Twitter やばねとりこさんの Twitter に上がっている動画などをご覧いただけば一目瞭然だと思うので、詳細は書かないのだけれど。
事前に必要なものを聞かれたときに、机と椅子ってお伝えしていて。
立ったまま即興のような何かをする自分がイメージできなかったから、ひところの Merzbow のライブみたいに、座ってラップトップを操作してるような感じになるのかなって思って、椅子もお願いしたんだけど。
サウンドチェックのときから、なんだかよく分からない感覚に囚われていて。
ほんとにこれはなんだかよく分からない。今でも分からないんだけど、何かがこみ上げてくるような、一方で何かが頭の上から降ってくるような、そしてその二つがわたしの中でぶつかって溶けていくような、そんな感じ。ぜんぜんうまく言えてないけど、そんな感じがほんの少しだけ、していて。
椅子も出してくださっていたんだけど、その存在を忘れるくらい、気がついたら立ったまま、いろいろしていた。
開場前に平野さんが「さっき座ってなかったけど、椅子、要ります?」と聞いてくださって、「やっぱり要りません」と答えた。何もできなかったとしても、立ったままで、さっきの感覚を味わっていようと思ったから。
いよいよ開演。出番は 2 番目。
喘鳴さんのパワエレで始まったライブ。凄まじい、すばらしい演奏だった。気がついたら飲み込まれていて、何度も涙ぐんだ。次が自分の出番だってことをすっかり忘れるくらい、ほんとにただただ、飲み込まれた。
きっとそれがよかったのだろう。緊張はもちろんしていたけれど、何かが吹っ切れていた。
Elly の隣の椅子から立ち上がり、すでに置いてある自分のセッティングの前に立つ。
もう一度、音が出ているかの確認をしたいと言われ、音を出してみる。平野さんが両腕で大きくマルのサインをくれてから近づいてきて、「いけるなら、いきましょう」と言ってくれた。
「はい、いきます、よろしくお願いします」
流れていた音が消える。iPad の再生ボタンを、叩いた。
そこからのことは、Elly が撮影してくれていた動画をあとで見たから、自分が何をしていたかは分かってはいるんだけれど、あんまり覚えていないというのが正直なところ。自分の両側から大音量で流れてくる音は、自分が作った音なのだけれど、自分のものではないような気がして。聴いているうちに、さっきの感覚がよみがえってきて、それも今度はさっきよりずっと大きく、強く、わたしの中で溶け合い、目の裏で淡い光を発するようで、わたしは、いつの間にか、その光を読み取りながら、iPad を叩き、エフェクターのノブを回すことに夢中になっていた。
面白いなと思うのは、そんな中でもどこかにちゃんと醒めた自分もいて、そろそろあの音が入ってくるからこの音は消しておかないと、とか、そういうことはちゃんと気付けていて。
自分の外側の音と自分の内側の何かに衝き動かされているうちに、予定していた 25 分が、予定通りに終わった。
拍手が聞こえて、ああ終わったんだと思った。
静かな興奮が自分の中にたまっていて、待っている Elly のもとに歩み寄り、こぶしを合わせ、ハグを交わした。
転換なので、キャリーバッグを引きずってきて機材を放り込む。
喘鳴さんと同じ M.A.S.F. のエフェクターを使っていたことを教えられて喜んだりしながら、感じていたのはただ、楽しかったという気持ち。そう、楽しかった。自分があんなことをするなんて思ってなかった。座っているだけだと思っていた自分が、得体の知れない感覚に衝き動かされて演奏するなんて思ってなかった。それは、ほんとうに、ほんとうに、とんでもないくらい、楽しかったのだ。
片付け終えたあとのビール、とてもおいしかった。ごちそうさまでした。
出番が終わったあとはもう、ほんとにただの観客で。
演奏を聴いては感動し、あとにくっついていって、いろんな話を聞かせてもらって。
どの演奏もすばらしかったし、次のチャンスがもしあるならばこんなことをしてみたいというアイディア(というか妄想というか)も大きくふくらんでいる。
出演者やスタッフのみなさんと交わした一言一言がすべて、わたしたちを刺激し、わたしたちを次へ、前へと押し進めてくれる原動力になっています。本当にありがとうございます。感謝しかないです。
またお目にかかってみなさんの音を聴ける日を楽しみにしていますし、もしも一緒に音を出せたりするなら、そんな幸せなことってないなあって思っています。
みなさんより一足先に会場を出てからは、先に宿泊先に戻っていた Elly と落ち合って、遅い夕食を兼ねて反省会。
彼女の支えがなかったら、この日はなかった。いつもいつもそばにいてくれて、ありがとう、Elly。
……とまあ、長い上にまとまりのない、人生初ライブの顛末に、ここまでお付き合いいただきまして、ありがとうございます。
最後にもう一つだけ。
この日のライブ演奏を、近々リリースするアルバムのボーナストラックにします。
事前に作った音源に当日の演奏を乗っけて、ライブで完成する楽曲を作ってみたかったので、演奏はビデオカメラで録音すると同時に、リサンプリングもしていて。
タイトルは “indifferentia”、ラテン語で、意味は「無関心」です。
アルバムの話は、別の記事でまた書きます。
ライブ、ほんとに楽しかった。また出たい!
素敵な時間をいただけたことに、もう一度、心の底から感謝を。
ありがとうございました!