観 / ignorance

そんなに簡単にわかられてたまるか。

「観」で終わる三字熟語はいくつかある。たくさんあるのかもしれないけど。
パッと思いつくものだと、世界観、価値観、歴史観、先入観、側面観、大局観、人生観、死生観、厭世観、終末観、宿命観、無常観とか。
どの言葉もよく目にするけど、どれもあまり好きではない。

たとえば、価値観。
「価値観が同じ」と何のためらいもなく口にする人とは、一生分かり合えないだろうなと思う。というか、近づきたくない。
「価値観が似ている」なら、百歩譲って、相手を理解する努力をしてもいいかな、という気になれるかもしれない。たぶんなれないけど。
「○○については価値観が似ている」と範囲を限定するなら、まだ分かり合える余地がある気もする。

「観」というからには、その人が対象をどう「観て」いるかを指し示すものであるはずで。
わたしが価値を見出すものとあなたが価値を見出すものは、同じであるはずがない。
たとえば同じものを見て感動したとしても、わたしが何に価値を見出したか、あなたにわかるはずがない。もちろん、逆もまた然り。
もし、それを共有したいと望むのなら、言葉を選び、言葉を尽くして、「価値」の中身を解きほぐし、聞き取らなければならない。
それでもきっと伝わらないのに、それもせずに「価値観」が云々と宣うことは、あまりに恐ろしくて、わたしには絶対にできない。

なんでこんなことを言い始めたかというと。
わたしたちの音を聴いた(らしい)人が、「なんかすごい世界観ですね」(下線強調はわたし)と書いていたのが、どうにも頭に引っかかってるから。
わたしたちの音を聴いただけで、わたしたちが「世界をどう『観て』いるか」が分かったとでもいうのだろうか。
そうだとしたら、こんなに傲慢な話もない。
あるいは、世の中の多くの人は「○○観」という言葉を使うことで何かを言った気になれるらしいので、自分には理解できない音だと、遠回しに言ったつもりなのだろうか。
そうだとしたら、ずいぶんとお粗末な話だ。

これがもし、「なんかすごい世界ですね」だったら、まだ多少はましなのかもしれない。
口にする言葉を吟味した痕跡がそこにあるから。
どちらにせよ、わたしには絶対に口にできない言葉だなと、唖然としたというか、呆気にとられたというか、そういう感じだった。そしてそれは今、怒りに変わっている
だって、相手に失礼だもの、そんなことを軽々に口にしたら。
それなら「わたしにはこの音の何がいいんだか、ちっともわからない」と言われた方がずっとずっとうれしい。

わたしの世界観を、赤の他人にそんなに簡単にわかられてたまるか。
自分以外の誰かの「世界『観』」なんて、わかるはずがないのだ。
「へー、おまえには世界はこんな風に観えてるんだ、ふーん」って軽々しく言われたら、気分が悪くならないのだろうか。
わたしは、なる。その無神経っぷりにいらいらするし、吐き気すら催す。

あなたはわたしたちの何をわかったつもりになっているのですか? あなたはただ、わたしたちの作った音を聴いただけ。それはわたしたちの世界のほんの一部でしかない(あるいは、それはわたしたちから切り離されているから、もはやそれはわたしたちの世界の一部ですらないのかもしれない)。わたしたちはわたしたちの音を、ましてやわたしたちのことを、あなたに「理解」してほしいなんて全く思っていないし、誰に対してもそんなことは望んでいない。そこからわたしたちの「世界観」を透かし見てほしいなんて、これっぽっちも思ってない。わたしが他の人の音を聴くことによってその人の世界観を覗き見ようとしたことが、ただの一度もないのと、それは同じこと。そんなことができるわけがないことを、わたしたちは知っているから。だから試みないし、他人にもそれを試みることを望まない。できるわけがないことをできるかのように振る舞うのは傲岸で不遜で、しかも自らの無知と過信、つまり自らが無知であることを容認している事実を喧伝するだけですよ?

It’s frightful that people who are so ignorant should have so much influence.

George Orwell

Nothing is more terrible than to see ignorance in action.

Johann Wolfgang von Goethe

Nothing in all the world is more dangerous than sincere ignorance and conscientious stupidity.

Martin Luther King, Jr.

今回のこの件だけではなく、巷間にあふれる言葉を目にするたびに、わたしも心から上記の引用に同意する。
同意するのは悲しいことだけれど、そうせざるを得ない。
それとともに、わたしたちは以下の言葉を標に歩んでいかなければ、と自省する。

It takes considerable knowledge just to realize the extent of your own ignorance.

Thomas Sowell

We live on an island surrounded by a sea of ignorance. As our island of knowledge grows, so does the shore of our ignorance.

John Archibald Wheeler

Beware of false knowledge; it is more dangerous than ignorance.

George Bernard Shaw

そんな、このごろ。

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