多体、または多態。
数年前に「音楽をつくろう」と思い立って、安売りしていた DAW を買って、何もわからないまま作り始めた。
すぐにハードウェアに興味を持つようになって、楽譜が多少は読めるのと鍵盤には多少なじみがあることもあって、鍵盤のついたシンセサイザーや、いわゆるガジェット系のシンセサイザーをいくつか買ってみたりして。
当時、Resident Advisor の記事を好んで読んでいて(今でもたまに昔の記事を読むけど)、その中で Rintaro さんのインタビューに出会ったのが、モジュラーシンセサイザーを始めるきっかけになった。
モジュラーシンセサイザーたちと出会う前も、出会った今も、示唆に富む内容。
インタビューの中で Rintaro さんが、モジュラーシンセサイザーたちを「こんなに多態的な働きができる音楽の道具って、人間の身体とコンピュータ以外にはあんまり無い」と表現していたのが特に印象に残っていて。
彼らと遊ぶ中で、「あのモジュールだったらこの音をどんな風に変えてくれるだろう?あのモジュールだったら?あのモジュールの CV を入れたら?」と想像して、実際に手を動かしてみることが、けっこう頻繁にある。
さまざまなツールのおかげで、大好きな Ableton Live や、今でも手元に残っているシンセサイザーたちとも呼吸を合わせて音を出してくれるし。
彼の言う「多態的」とは違うのかもしれないけれど、ほとんどルールらしいルールがない、懐の深さや広さのようなものが、わたしの今の(音楽ではもはやなくて)音を作るという行為をものすごく楽しいものにしてくれている。
「多態」という言葉にも惹かれた。
polymorphism という生物学のタームで、プログラミングの用語にも借用されているらしい。
どちらの解説を読んでもわたしにはほとんど理解できなかったけど、これらの言葉からわたしがイメージしたものを音で表現してみたかった。
S.o.L. を作ったときに「これは次にこれだけで使おう」と思っていたトラックを、例によって Ableton Live とモジュラーシンセサイザーに取り込んでグシャグシャにしてもらって。
動かすということを今回のテーマにしていたので、自分の中で納得ができるまでパラメータや音の位置をいろいろ試してみるのにも挑戦してみた。
なぜかこの音は、inworld (Second Life) で褒めてもらえることが多い。
“they create some effect.. some mental trigger” なんて言われると、ポンコツも少しは成長できているのかもしれないなって、うれしくなる。
いただいた言葉に恥じないような音を、これからも作り続けていきたいと思う。
というわけで、新作 “polymorphism” です。