音が喚起するのかもしれないこと。
今回の映像のアイディアがどうやって浮かんだのか、今思い出そうとしてもうまく思い出せない。
たぶん、“Sound Experiments #2 Feedback” を作るときに過去の自分の音源を聴き直したからだと思う。
作ったときにも書いたと思うけど、あのピアノの音は、わたしに限って言えば、たぶん何時間でも何日でも聴いていられる。
それくらい好きな音で、聴いているととりとめもない思いや考えがどこまでも広がっていく。
一方で、現代音楽や、いわゆる alternative な音楽、あるいはノイズに関する本も相変わらず読み漁ったり、本棚を整理しながら再読したりしていて。
artscape の Artwords(現代美術用語辞典ver.2.0)を端から読んでいってみたり。
内容をしっかり学ぶにはあまりに短い解説だからこそ、その先は自分の知識や想像力で「勝手に」補ってみる。
面白そうなら紹介されている文献を読んだり、Google で調べて論文を読んだり。
そういえば、母校の大学院生が数年前に書いた、イタリア未来派の写真家アントン・ジュリオ・ブラガーリアの論文はすごく面白かった。
出会った言葉や浮かんだアイディア、イメージをどんな風にまとめようかと思いながら、Photoshop で素材をとりあえず作って。
音作りと同じ感じでやってみようと思い立って、モジュラーシンセサイザーにランダム CV を吐き出してもらう要領で、Excel に乱数を片っ端から出してもらって、アッテヌバーターよろしく自分で数式を入れて、範囲を絞った乱数に全部決めてもらった。
グシャグシャになった語順も、表示されるコマ数(30コマ/秒)も、透明度も、角度も、座標も。
あとは Premier Pro で、音の波形を見ながら、一つひとつタイムラインに配置していく。
そんなこんなしながら映像を作っている最中に、頭に浮かんだ言葉があった。
こんなことはめずらしいんだけど、そもそも自分は(音よりもむしろ)言葉の人だという自覚はあるので、手を止めてイメージをふくらませて、書きとめて。
「いま浮かんだんだから、いま使おう」と思って、素材にしてから一つひとつ埋め込んで。
さみしかった背景も、キラキラするようなチカチカするような動きをほんの少し加えることができたので、完成。
エフェクトに Photoshop と似たようなパラメータがあるので、Premier Pro は使いやすいなと、今回思った。
同じ Adobe の製品なんだから当たり前なのかもしれないけど。
誰かが Adobe Ecosystem って言ってたな……。まんまと飲み込まれてるのかしら。
そういえば、Apple Ecosystem っていう言葉も聞いたことがある。
生態系と違って、循環してない気しかしないけど。「真夜中まであと一分」は『インフェルノ』だっけ。
自分が想起したものを、自分の作品を通じて誰かに伝えたいという思いは、実は全くない。
自分が喚起されたものを、自分の作品を通じて誰かと共有したいという思いもない。
それはとても傲慢な行為、傲慢な考えであるとすら思ってしまう。
わたしの「青」とあなたの「青」は絶対に同じ色じゃないって思うから。
だからいつもランダム CV やグラニュラー、今回であれば乱数を使ってグチャグチャにしてしまうんだけれども。
わたしの音や映像が、見てくださった方の中に何かを想起させたり喚起したりするとしたら、それがわたしの、幸せです。
というわけで、新しい MV です。楽しんでいただけたらうれしいです。